明神岳5峰(雪山)

凍る大正池と穂高連峰

山行情報

日時:2026/01/10 ~ 2026/01/12 天候:快晴/曇りのち雪/曇り
ランク:D-D-10:00 参加:9名
山行担当:CL3632 SL3626
記録担当:文責:4010 写真:3632, 3256, 3420, 4010

コースタイム

1日目
中の湯ゲート11:30…14:10小梨平キャンプ場(泊)
2日目
泊地7:20…7:45岳沢登山口…9:00岳沢風穴9:10…10:10 1850m…11:30岳沢登山口…12:00小梨平キャンプ場(泊)
3日目
泊地8:00…10:10中の湯ゲート

山行記

1日目

中の湯から釜トンネルを歩く。夏山シーズンであれば、釜トンネルはバスに揺られながら、ほんの数分で通過してしまう場所だ。暗さも寒さも意識することはなく、ただ「上高地へ入るための通過点」に過ぎない。しかし、冬山シーズンは違う。エンジン音の代わりに自分の足音だけが響くトンネル内を、一歩ずつ進む。寒い、暗い、長い。ここから先は“観光地”ではなく“冬山”なのだと、身体に直接教えてくる。

釜トンネルを抜けると、空は驚くほど澄み渡り、雪をまとった穂高の山々が静かに佇んでいた。振り返れば焼岳。その景色はあまりにも穏やかで、これから向かう雪山の厳しさを一瞬、忘れさせるほどだった。

翌日は天気が崩れる予報。この青空が長く続かないことを、誰もが分かっていた。澄み切った景色の一つひとつを、意識的に心に刻みながら小梨平へと歩を進めた。小梨平でテントを張り、中へ滑り込む。日が傾き始め、小梨平の空気は一段と冷え込んだ。バーナーに火をつけると、「ゴォッ」という音とともに、テント内の空気が生き返った。たったこれだけの火なのに、どうしてこんなにも心強いのだろう。文明の力、いや火という発明の偉大さを、冬のテントほど実感する。



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2日目

明神岳5峰へアタック。前日までの快晴から一転し、天気は予報どおり静かに下り坂へと向かった。小梨平のテント場では、夜半になるにつれて風が強まり、テントのフライが煽られる音に何度も目を覚ます。深く眠れたとは言えないが、この落ち着かない夜もまた、雪山ならではの時間。

小梨平を出発し、静まり返った岳沢小屋登山口(10番)から登山道へと入る。空は終始重たい雲に覆われ、風は強すぎるほどではないが、時折細かな雪が舞った。観光地として賑わう季節とはまるで別世界の厳しい雪景色を見せられた。岳沢登山口から登山道へ入ると雪は一気に深くなり、人の踏み跡は跡形もなく消えていた。夏山では見慣れたはずの場所も、雪に覆われることで全く別の山に変わり、毎歩が新鮮な挑戦になる。白一色の斜面に足を踏み入れた瞬間、ここから先は自分たちの判断と体力だけが頼りになると実感する。

9人で5分ごとに先頭を交代しながらラッセルを進めた。短い交代を繰り返すことで、隊列全体のペースは大きく落とさずに保たれた。淡々と進むそのリズムは、厳しい条件の中でも確実に前へ進むための、雪山山行ならではの行動。先頭に立つと、わずかな時間でも雪の抵抗は想像以上で、足を前に出すたびに体力が削られていく。一方で、後続に回ると直前についたトレースに救われ、呼吸と脚を立て直す貴重な回復の時間となった。個々の力ではなく、チームとして山に向き合っている感覚が、岳沢の静けさの中でより強く意識された。

風穴(7番)からバリエーションルート(南西尾根)に入る。地形は一気に立ち上がり、本格的な急登が始まった。雪は膝上から腿まで達し、足を上げるたびに重くまとわりつく。加えて、雪の下には笹や露出した岩、木が複雑に絡み合い、思うように身体を運ばせてくれない。踏み込めば笹に足を取られ、体重を預ければ地面の感触が登山靴越しに伝わる。雪だけを相手にしているわけではなく、地形そのものと格闘している感覚だった。

進路をわずかに外すだけで消耗は一気に増すため、確実に通せそうなラインを見極めながら、一歩一歩、身体を引き上げていく。標高1,850m付近に到達したところで、風が一段と強まり、身体を揺さぶる突風が吹き始めた。短い確認の後、ここで撤退を決めた。

下山に転じると、風穴(7番)までは驚くほどあっという間だった。登りでは長く、重く感じられた斜面も、足元に注意しながら高度を落としていくと、短時間で一気に下っていく。そこで初めて、自分たちが相当な急登を登ってきたのだと実感させられた。そこからは、登ってきた自分たちのトレースを頼りに岳沢登山口へと下山した。白一色だった斜面に刻まれた足跡は、わずかながらも確かな道しるべとなり、登高時とは違った安心感を与えてくれる。ラッセルで苦労した分、そのトレースのありがたさを一歩ごとに噛みしめながら高度を下げていった。こうして岳沢登山口に戻ったとき、雪山の厳しさと同時に、その中で得られる確かな充実感を、全員が静かに共有していた。

雪山は厳しい。思いどおりに進まないラッセルや強風、雪に閉ざされたテントでの時間…。どれも決して楽なものではなかったが、その不自由さこそが面白く、仲間と共有することで楽しさに変わっていくのだろう。雪山の厳しさに対して、自分はまだまだ余裕がないが、確かな経験として積み重ねられたと思う。



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3日目

昨夜も風の音で何度も目を覚ます夜となり、冬期テント泊の厳しさを実感する状況であった。早朝、天候の回復が気になりながら起床し、テントを撤収。低温下のためグローブを着用したままで細かな作業を行う。フライシートの足元は雪に埋もれており、スコップや手作業で雪をかき分けながら作業を進める。シート類は思うように畳めず、収納袋に入れるのも思うようにはかどらない。夏山と違って手間がかかる。帰り支度を終え、小梨平から中の湯へ下山開始。行きと同じ道を戻るが、一昨日の快晴とは打って変わり、わずか一日の降雪で、景色は容赦なく冬の表情へと変わっていた。

前日と同じように、先頭を交代しながら歩を進めた。途中、凍りついた大正池の向こうには、白く染まった冬の穂高連峰が堂々とそびえていた。冷たい空気の中、穂高連峰を背に全員で記念撮影。美しさと厳しさが同居する冬山の空気を、身体の芯まで感じながら、今回の会山行を静かに終えた。



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