谷川岳衝立岩中央稜
山行情報
日時:2025/06/06 ~ 2025/06/08 天候:晴れランク:D-D-14:00 参加:6名
山行担当:CL3420 SL3730
記録担当:文責:3959 写真:3420, 3730, 3595, 3959
コースタイム
1日目
海老名駅発13:00=17:00指導センター(泊)
2日目
泊地3:30…4:05一ノ倉沢出合4:15…5:20中央稜取り付き5:40…11:00トップアウト11:50…15:10略奪点15:30…16:40衝立前沢最後の滝17:10…17:40一ノ倉沢出合17:50…18:30指導センター(泊)
3日目
泊地7:30…8:10子持山7号橋駐車場8:40…9:40獅子岩取り付き(尾根道経由)10:00…13:30山頂14:30…15:50取り付き16:10…16:407号橋駐車場
※=マイカー移動
コースマップ
記録日:2025/06/07記録日:2025/06/08
山行記
1日目
アルパインクライミング本チャン初参加が決まり、準備段階から気が逸る。数週間前から天候が気になり、一日に何回も予報を見るが「週末10週連続で雨」、「梅雨入り間近」などのバットニュースばかり。ところが日一日と近づくにつれ天気は好転し、全日程3日間は雨が一滴も降らない快晴となった(ちなみに山行終了2日後に関東梅雨入り)。
当日は13時に海老名駅で集合し、車1台に6名が乗り込み、谷川岳に向け出発。私が運転を任され、調子に乗って車を飛ばしていると、いつのまにか関越道ではなくなぜか東北道。後部座席から「明日の本チャン前からルーファイ間違えていて大丈夫か」と、手厳しい一言が飛んでくる。30分ほどタイムロスしたが、途中スーパーで夕食等を買い出し、無事谷川岳登山指導センターに到着した。食事を済ませ、CL・SL中心に翌日ルートの相談。20時半にはシュラフに潜りこんだが、皆なかなか寝付けなかったようだ。
2日目(谷川岳衝立岩中央稜)
2時半に起床、朝食をとり3時半に出発。約40分歩き、一ノ倉沢出合に到着。そのころには辺りが白み始め、雪渓の向こうに谷川の荒々しい岩壁が反りたち圧倒される。出合からは雪渓歩きのため、チェーンスパイク装着。今年は雪が多いそうで、テールリッジまではスムーズに行けた。雪渓から、シュルンドに気をつけてテールリッジに慎重に乗り込む。その後の乾いたスラブは、アプローチシューズでグリップもバッチリ効いた。
テールリッジを登りきって中央稜取り付きに到着。迫力ある衝立岩が出迎える。いよいよクライミング開始だ。A・B各3名の2パーティーに組分け、私は先行Aパーティー。どうせなら1ピッチ目(ピッチ=P、以下Pで省略)トップバッターと、4P目の核心ピッチをやりたいと先輩にお願いして了承いただく。
1P目リード。トップバッターで、いい意味でテンションが上がる。岩が動くので、引っ張らないよう注意して登る。3P目はAさんがリード。出だしは下が切れ落ちたトラバースで、緊張感が伝わってくる。トラバースを抜けて右フェースを少し登った懸垂ポイントでピッチを切ったので、核心は5P目になった。
5P目はチムニーから上に抜ける部分が難しく、A0して左フェースに抜けて登った。6P目は傾斜が緩く、ロープの流れに注意が必要だ。終了点は、ピナクルに作られた岩に挟まれている。ピッチをあげるごとに、抜けるような青空と高度感がハンパなく気持ちいい。隣の南稜側岩壁では、ときおり落石があり大きな音を立てている。ブロック雪崩の音もすごく、本チャンならではの迫力だ。
7P目は、ほかに比べて岩が硬く、安心できた。8・9・10P目は緩やかな泥ルンゼ登りだが、岩が脆く浮石も多く、落石に気をつけた。全員が衝立の頭にトップアウトして、こぶしを突き合わせた。後半戦に備えて、しばし昼食休憩を取った。
後半戦出だしの全9回の懸垂下降は、CLが先頭を行く。最初は岩場をまっすぐに降りるが、3回目からヤブの中をかき分け、足元も見えないような中を斜めに降りていく。まっすぐに降りると衝立岩正面壁に出てしまうそうだ。懸垂地点を間違えると、登り返す必要があるため要注意だ。2回の空中懸垂を経て、「略奪点」に到着した。途中、ロープもスタックすることなく、無事に降りてこれたが、何度もこのルートを経験しているリーダーがいてこそだ。
略奪点でクライミングシューズからアプローチシューズに履き替え、全員指先の痛みから解放されたのも束の間、ここから想像を絶する雪渓と沢下りが始まった。雪渓が残る衝立前沢上部は、沢岸のヤブから雪渓に飛び出た草木を掴みながら、チェーンスパイクを付けて慎重に雪渓の端を一歩一歩下ったが、何人も危うく雪渓を滑り落ちそうになった。雪渓がなくなると、今度は水の流れる沢下りがスタート。足元はかなり滑るが、頼れるものは抜けそうな草ばかり。個人的には、中央稜の登攀よりも緊張した。
滝に到着し、最後の懸垂下降となる。沢の水でびしょ濡れになりながら、シュルンドを避けて雪渓に降り立った。最後の緩やかな雪渓は、チェーンスパイクを装着し軽快に下り、一ノ倉沢出合に到着。全員無事帰還し、健闘を称え合った。後ろを振り返り、圧倒的迫力の谷川岳岩壁を改めて見ると、こんな凄い場所を自分が登ったのだと誇らしく感じた。
その後、谷川岳登山指導センターに戻って荷物を置いて、すぐに谷川岳ベースプラザで冷えたビールを買って流し込んだ。夜の歓談もそこそこに、全員身体が疲れ切っていたようで、ほどなく意識を失うかのように眠りについた。
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- 3時半に出かける。参加者は6名なので、3名ずつのA、Bパーティーで登る
- 新人のリードでAパーティーから、いざ出発
- 3ピッチ目の出だし。右から回り込むが怖い。Aパーティー回収忘れのヌンチャクが見える
- 核心のチムニーに向かって。Aパーティーは左のフェースを、Bパーティーはチムニーをよじ登った
- 終了点着Bパーティー。最終ピッチは、支点の右から2級くらいの草付きを上がった。今年の岩は乾き快適。チムニー内も水無し
- 北稜懸垂1ピッチ目のしっかりした支点。40mの懸垂が3ピッチ続く
- 右の立ち木の影のところで1回目の懸垂ロープ設置。5m歩いてから空中になるので、ロープを枝に絡めないように投下
- 空中懸垂2ピッチ目、降りるとピナクル。支点は前のピッチ50mぎりぎりのところにある
- 略奪点で靴を履き替える。ほっと一息。残雪があるかと心配したが、ピナクル手前もコップスラブも雪はまったくなかった
- 衝立前沢に残る硬い雪渓を下りる。これまでで一番残雪が多い
- 衝立前沢の懸垂。いつもは右から雪渓に乗るが今年は左から上がった
- 本谷に合流。各自の足ごしらえ、主にアプローチシューズ、登山靴もある。念のためピッケル1本携行。明るい内に戻れてよかった。奥にテールリッジ、衝立岩が見える
3日目(子持山獅子岩)
前日と違い、6時ごろゆっくり起床。身体中が痛くてダルイ。こんな状態で子持山獅子岩のマルチピッチルートを登れるのかと、新人は私も含め朝からテンション低めだ。こんな時に限って晴れていて、SLはやる気満々。私たちも気を取り直して、トポの研究を開始した。アプローチは尾根を登ったり下りたりで、疲れた身体に響く。50分ほど歩いたのちに獅子岩に到着した。
ノーマルルートを、今日はBパーティーから先に登攀する。トポ記載の登攀グレードは5.5~5.8だが、どのピッチも明らかにグレードが高い。高度感もあり痺れるルートだったが、やり切った充実感を味わうことができた。帰路は別ルートを下り、アプローチに要した約半分の時間で駐車場までたどり着けた。
今回、MRT(マルチピッチ・ロープ・トレーニング)卒業1年目・2年目の4名が怪我もなく、事故もなく、無事3日間を終われたのは、頼りになるCL・SL、二人のアドバイスやご指導があってのことと感謝しかない。数年後は自分たちが、後輩を同じルートに安全に連れてくることができるのだろうか。今はまだ到底想像もつかないが、この経験をしっかりと自分のものにして、いつか恩送りができるよう、引き続き総合力アップに努めたいと強く思った。
【CL追記】
ムロ君、コーラはクライミングに持って行かないこと。甘いので身体が緩む、余計に水がほしくなる。泊地に戻ってから飲もう。カメ君、行程が未だたっぷり残っているのに水を飲み干したら、あとは遭難するだけ。二人とも2泊3日以上の縦走をたくさんして、危機対応の技を増やしていこう。雨が降るとどうなるのか、暗くなるとどうなるのか、水がなくなるとどうなるのか、食べ物がなくなるとどうなるのか。クライミング中に起こるさまざまな事象の中で、パーティー全員が無事に下山できる行動に繋げられるように登山力を付けてください。
今年は残雪が多いので心配したが、ピナクル手前のルンゼにもコップスラブにも雪はなく、杞憂となった。衝立前沢に出ると雪渓が沢をうずめ、30分くらい沢岸の木をつかみながら下りることになった。6月は5回目の北稜下降になるが、衝立前沢に硬い雪渓が残っていたのは初めて。最後の滝を下りたところの雪は、例年より少し多いくらいだった。梅雨入り前に濃い2日間を過ごせて、参加者にとって良い経験となった。
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- 子持山の番人の方からいただく。獅子岩取り付きまで尾根道を行くと岩が見えると教わったが、時間は倍くらいかかった
- 尾根道から見える獅子岩。高速道路から見える形だ
- 今日はBパーティー、Aパーティーの順に上がる。トポの1ピッチ2ピッチを繋げて1ピッチとして上がる
- 1ピッチ終了点から下を見る
- Aパーティーはここで終了とし、登山道を山頂へ。後ろにある数本の立ち木が懸垂下降の支点である
- 懸垂1ピッチ目のセット中
- バンドから残置ロープを伝い、3ピッチ目の懸垂支点へトラバース
- 神様に無事帰還のお礼参りをする